失火者の責任について

失火者は、どういう場合に責任を負うか?

 火災が発生した場合、失火者側にはどういう場合に法律上の賠償責任が発生するのでしょうか。

 「失火法」によって、責任が発生しない場合が多いのですが、ケースによっては責任を問われる場合もあります。
 そこで、考え方を整理してみました。いっしょにご確認ください。

(質問)

 火事の場合に失火者が賠償責任を負うのはどういう場合でしょうか。

(回答)

 それはかなり難しい問題でして、ひと言では説明しきれません。まず、賠償責任に関する民法の規定が前提となっていますが、賠償責任には「不法行為」と「債務不履行」の場合があるということはご存じですか。

(質問)

 はい、加害者と被害者の間に事故前から特別な契約関係があったかどうか。
 あった場合は「債務不履行」、ない場合は「不法行為」と理解していますが・…。

(回答)

 よくご存じですね。
 とりあえずは、その二つのパターンがあるということを押さえておきましょう。

 では、ケースに沿って考えていきたいと思います。

ケース1(不法行為のケース)

 Aさんの台所の火の不始末により出火し、台所を焼失し、さらに隣家Bさん宅の一部にまで延焼した。
 Bさんは、Aさんに損害賠償の請求をしてきた。

(質問)

 この場合Aさんは賠償しなければならないのでしょうか。
 確か、火災の場合には失火責任法というのがあって、賠償責任が生じないと聞きましたが・…。

(回答)

 おっしゃるとおりですが、もう少し細かく考えていかなくてはなりません。

 この場合、AさんがBさんに対し賠償をしなければならないかどうかは、AさんBさんの間には契約関係はありませんから、「不法行為」について考えればいいわけです。

 その内容は民法709条に規定されていますが、失火の場合には、「失火二関スル法律」(注1)(以下「失火法」という)が適用されることになっており、そこでは重過失でない限り709条の責任が生じるかどうかのポイントは、Aさんに重過失があったかどうかということになります。

(質問)

 では、重過失というのは、どんな場合を指すのですか。

(回答)

 一般には、“ほとんど故意に近い著しい注意欠如” などといわれていますが、判例による具体的事例によって理解しないとなかなか難しいですね。
 ところで、Aさんの失火の原因はなんだったのですか。

(質問)

 ガス火で揚げ物をしていた時に電話があり、その応対をしていて揚げ物のことをすっかり忘れてしまい長電話になったらしいのです。
 その間に火事になったということです。

(回答)

 なるほど、似たようなケースの判例では、天ぷらを揚げていたとき、その場を離れて火事になってしまったというケースの判決で「重過失」とされているものがあります。
 したがって、Aさんの場合も重過失と考える余地がありますね。重過失であれば、責任が発生します。

(質問)

 もし重過失だとすれば支払いの対象となる保険はあるのですね。

(回答)

 個人賠償責任保険にAさんが加入していればその保険で支払われます。個人賠償責任保険の場合、故意は免責ですが重過失はカバーされます。

(質問)

 ところで、賠償責任保険ではなく、Aさんの火災保険という面から考えてみると、確か火災保険では「重大な過失」は約款上免責になっていたと思うのですが、そうするとAさんの火災保険は支払えないでしょうか。

(回答)

 そういう問題もありますね。もし失火の原因がAさんの重過失であれば賠償責任は生じる、よって個人賠償責任保険は適用される。

 その場合、火災保険は免責か? という疑問ですね。
 ここは議論のあるところですが、それぞれの法律なり約款なりが重過失を規定している趣旨に即して考えることが必要で、あくまでケース・バイ・ケースで判断すべきでしょうね。

(質問)

 そうですが。そうすると、重過失によって賠償責任保険が生じ賠償責任保険が使え、同時に火災保険も支払われるというケースはありうるということですね。

ケース2(債務不履行のケース)

 Cさんはアパートの一室を借りていましたが、失火により自分の借りている部屋だけでなく、ほかの部屋にも及ぶ火災を起こし、家主のDさんから損害賠償を請求されました。

(質問)

 Cさんは家主のDさんに賠償しないといけませんか?  失火法は・…

(回答)

 さきほどのケース1におけるAさん、Bさんは、「不法法行為」に基づく賠償責任でした。
 つまり、民法709条責任です。「失火法」はあくまで、709条の特別法です。

 ところが、ケース2では、Cさん、Dさんは、もともと賃貸借という契約関係があり、この場合は賠償責任発生のもう一つのパターンである「債務不履行」による責任(民法415条)に該当します。
 したがって、「失火法」の適用はありません。これが現在の考え方です。

(質問)

 というと、Cさんに責任が生じるということになりますね。
 では、契約関係にあるということは、賠償の範囲もその契約を前提とした賃借部分と限定してよいのでしょうか。

(回答)

 いくつかの判例を見ますと、最近は賃借部分だけではなく、建物の構造上不可分一体をなす部分についてもその復旧工事は賠償の対象とされているようです。
 したがって、賃借部分にだけ限定されるわけではありません。

(質問)

 保険の上では、Cさんが借家人賠償に加入していれば支払われるわけですね。

(回答)

 そうです。では、次に、家主Dさんが火災保険を付保していた場合にはどうなるか考えてみましょう。

 Dさんの火災保険で保険金が支払われた場合、その範囲内でCさんに対する損害賠償請求権は保険会社が代位取得しますが、保険会社では、火災保険「代位求償権不行使条項」(注2)により、故意、重過失でない限り、Cさんへの求償権は行使しません。

 ですから設例のケースのようにDさん自身がCさんに賠償請求してくるということはDさんが無保険だったり、火災保険が一部保険だったりした場合だと考えられます。

 このように、失火の原因または、被害者との関係によって賠償責任の有無が変わってくるという点に、火災における賠償責任の難しさがあるのです。

 以上のとおり、「不法行為」(民法709条)と「債務不履行」(民法415条)の二つの責任発生パターンについて失火による賠償責任を説明いたしました。

 火事の場合には、私たち、火災保険と賠償責任保険という両面から考えていくことが必要です。
 ところで実は、失火責任については、まだまだ多くの問題があります。

 不法行為責任の場合はどんな場合でも「失火法」が適用されるといくことではなく、不法行為責任の中でも、709条以外の場合(たとえば717条「土地工作物責任」)には前述の「失火法」の適用があるのかどうか…

 これを広く深く検討しはじめると、一冊の本になるくらい判例、学説とも多くの判断に分かれています。
 したがって、ここでは基本パターンを理解していただくという趣旨から、以上にとどめておきたいと思います。

注1・・・「失火法」

 この法律は明治32年に制定されたもので、木造家屋の多いわが国ではひと度火災が生じると大火になる可能性が高く、その損害を失火者に負わせるのは酷である、との立法趣旨によります。

 しかし、建築事情がその後様変わりしており、現在の実状にそぐわないとの批判もあり、この法律の適用、解釈は時代とともに変わりつつあるといわれています。

注2・・・「代位求償権不行使条項」

 この条項が付帯された普通保険約款の代位に関する規程により、被保険者が借家人(賃貸借契約または使用貸借契約に基づき保険の目的である建物を占有する者をいい、転貸人および転借人を含みます。(以下同様とします)に対して有する権利を、保険会社が取得したときは、保険会社はこれを行使しないものとします。

 ただし、借家人の故意または重大な過失によって生じた損害に対し保険金を支払った場合は、この限りではありません。

2006年03月29日

カテゴリー:損害保険コラム


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